Jump over the footprints of rabbits…
ウサギの足跡を飛び超えるようにフレッシュな尾根に彼のシュプールは刻まれた。
数日間溜め込んだ降雪は、同じく数日かけて沈降し安定していた。やや南東向きの斜面は、条件が整った午前中のみ楽しむことが出来る、とあるスポット。波のように見える尾根に差し込む光は、濃淡が強く輝き、影は伸びて美しい。
早朝5時、現地集合のため、車で向かった。車内は既に緑の館で焙煎した珈琲の香りが漂い、飲む前から目がさめていた。俺は数日後に受ける膝の手術のため、恐らく今回が今季最後のBCになると予想していた。
そんな”記念すべき”状態の整った日に、今日も、誰が集まるのかはわからない。そして、どの尾根を滑るのかもわからない。状態が良い日を各々が感じ取り、特に前日、連絡を取り合うこともなく、しかし、たまたま今日という日に条件が整った誰かは来るのだろうと期待しながら、日の出に合わせて準備を整えた。
一番に到着すると、少し不安になる。一人だったらどうしよう。これから訪れる感動を仲間と分かち合いたい。単独山行によるリスクよりも、下山後のハイタッチを思い浮かべてしまうのは、正直なところ。しかし、そんな不安は、山道を勢いよく登って来る車のヘッドライトが見え、数分で安堵に変わった。
@m_r_k_z 滑りも写真も先輩の同級生。尊敬する一人だがガキの頃は喧嘩もした。ただし今となっては、BCで先陣を切ることが多い彼の存在は大きく、なんとか、昔の事は水に流して欲しいと思っている。
手際よく準備は整えられ登る。良いペースでハイクは終わり、2時間程で斜面が見えてきた。途中、音もなく日の出を迎え、雪の結晶が輝き始めた。これから雪が腐る前の数時間は、俺たちだけの時間で、俺にとっては今季最後の天国だった。
数ある尾根筋の中から滑る尾根を決める。刻むラインを想像しながら、雪質・地形・光、そしてリスクをイメージする。飛ぶのか、当てるのか、大きく行くのか、早く行くのか…それは自由。
俺は彼を撮影したかったので、彼のラインを聞くのが待ち遠しかった。普段、人のラインをお互いに聞き合う事はなく、ただし、人のラインに被せ、水を差すような事はしないよう心がけていた。彼は一本の尾根を注視していた。手でS字を書くようなそぶりをしていたので、恐らくそれが狙っている尾根なのだろうと思った。俺は、その尾根をNikon 400mmで狙えるポイントへ、もう二つ上の尾根へ移動した。
静かに動く光と影。風は無風。心臓の音も聞こえない。何回も確認したカメラの設定を、もう一度確認し、ファインダーで彼をのぞいた瞬間、こちらを振り向き、ニヤリと笑った。
…Dropの合図だろう(わかりにくい)。
おわり
後記:
今回の撮影で印象的だったのは、光と影を交互に行き来し、ワンテンポ遅れで上がるスプレーの中で光がバウンスし、影をほのかに照らしていた事。スプレーはとても魅力的な要素の一つだけれども、何故、こんなにも魅力があるのかを、もう一度考えるきっかけになった。